2009年個展「陋巷画日記(ロウコウエニッキ)」


大倉ひとみ 「ピアニシモな建築たち -- 小さく音楽がきこえてくる --」
2006年7月7日(金)〜15日(土)

ブログの小さな記事で大倉ひとみさんを知りました。根津のcafe NOMADで開かれていた個展はその時終了していました。どうしても作品を見たかった私は無理を言って9点見せていただきました。目の前に並んだのは私の視線をこころよく受け止めてくれる作品でした。大倉さんの絵は言葉数の少ない絵です。その分、私たちの言葉をうなずきながらゆっくりと聞いてくれるます。今回はNOMADでの個展出品作品を中心に9点展示いたします。新作展ではありませんが、気持ちよく楽しんでいただけると思います。

電線エレジー27×22cm春の坂道27×22cm
(左)「電線エレジー」 27×22cm
(右)「春の坂道」 27×22cm


曲がり道32×41cm 「曲がり道」 32×41cm  ●道を見ると「何処へ通じているのだろう」と思う。見えない向う側から何かがやって来はしないだろうか?と怖くなって動けなくなることはまず無い。道は前へと進んでゆくものなのだ。
「曲がり道」は、何があるのだろうその先にと、見る人に思わせるいい絵だとグンジさんが言った。
この絵の情景は工場地帯のようだ。道は運河に沿っていて、曲がった先は海だろうと思う。けれどそこが道の終点ではなくて、ずっと先まで道は延びている。ただ、曲がり角は一息入れるにはいい場所なのだ。自転車から降りて一服つける人もいるだろう。
曲がってしまえば先も見通せる。人や車が夕日の中、スローモーションでこちらへ向かって来る。自分もそっちへ向かってぽつぽつと歩き出す。しばらく歩くうちにこの絵の前に着くのです。

鉄塔の見える風景14×18cm
「鉄塔の見える風景」 14×18cm

曙ハウス「曙ハウス」45×65cm ●モチーフの曙ハウスは、根津に越してきた3年前に初めて見たが、描くことには今ひとつ踏み切れなかった。というのも、地元ではかなり有名な建物で、色々な人が描いておられるようだったし、私はもっと何でもない建物を描きたい気持ちの方が強かった。しかし、だんだんこの町に住むにつれ、もういつ毀れても不思議はないこの建物に、やはり惹かれていったのだと思う。そして、様々な人がこの建物を愛し、根津の象徴のように思われていることに、ある種の感慨を持つようになった。そして、今年そのすべてがなくなってゆく一部始終をみたとき、はっきりと描くモチーフとしての曙ハウスが、私のなかで起ちあがっていったように思う。
この建物についてご存じのかたに、ほんの少しお話をきいたりはしたものの、それらのことは画を描くときは一旦忘れ、純粋にハウスの形の美しさと、年月を経た風化の美しさに自分の想いのようなものを重ねた。だから決して私の画の中の曙ハウスは「実物描写」や「再現」ではなく、あくまで私自身のなかで消化し昇華した建物なのだ。そしてそこにはおそらく、隠そうとしても隠し得ない、私自身のこれまでの暦が反映されてしまっているのだろう。それはもう、どう評価されてもそのままを受け入れるしかないとも思う。 ●大倉ひとみさんのブログ【N的画譚より】

海が見える14×18cmブルートタンの家14×18cm「海が見える」 14×18cm 「ブルートタンの家」 14×18cm
大倉ひとみ ● 横浜市に生まれる、日本女子大学国文学科卒業、2000年・個展(ギャラリー毛利)、2003年・個展(ギャラリー近江)、2006年・個展(cafe NOMAD)【装幀・イラスト】「赤線跡を歩く」 木村聡 自由国民社 ■「落ちる」他 多岐川恭 創元推理文庫 ■「とむらい機関車」「銀座幽霊」 大阪圭吉 創元推理文庫 ■「他力を生きる」 筑摩書房 ■「この一瞬の響きに」 春秋社 ■「福祉史をあるく」 エディタースクール ■「ランチブッフェ」 山田宗樹 小学館


2009年個展「陋巷画日記(ロウコウエニッキ)」